AKB48の曲がり角を海外姉妹グループが避ける方法(大幅加筆)

そこそこ面白いAKB48関連記事を見つけたので上海SNH48グループとの比較で論じてみる。

『総選挙中止から見るAKB48の曲がり角──AKB商法の機能不全、「パンドラの箱」だったK-POP進出』(松谷創一朗 2019/03/21 Yahoo!ニュース)

秋元康氏はAKB48のコンセプトを裏切っている

この中でオリコンチャートに見られる「AKB48商法」の人気が、ビルボード・チャートで「水増し」だと明らかになった、とある。

この仮説は正しいとしても、「AKB48人気の隆盛と凋落が生じた10年代のこうした状況は、後年おそらく旧いメディアと新しいメディアの過渡期に生じた現象として振り返られるだろう」という松谷氏の推論は間違いだ。

じっさいには単に秋元康氏が当初のコンセプトを、途中から転換しただけだろう。

秋元康氏がAKB48に当初与えたコンセプトは、「こだわりを持つ少数が面白いと思うものが核になり、それに共感する人々の輪がドミノ倒しのように広がっていくような現象が主流になっていくだろう」だった。

しかしAKB48が大ブレイクして以降、もはやAKB48は「口コミによる意外なヒット」ではなくなり、松谷氏のいう「インターネット時代だからこその双方向性」が失われ、旧来の「大多数の支持がヒットにつながる『最大公約数の時代』」に戻ってしまった。

秋元康氏が最初のコンセプトに忠実なら、松谷氏のいう「従来のような送りての仕掛け」が機能してしまうマスメディアにAKB48を出演させなかったはずだ。

ところがAKB48は「お茶の間」メディアの典型である紅白歌合戦出演まで果たし、1970年代の古典的なアイドル像を反復し始めてしまった。

ただし秋元康氏は意図的にコンセプトを転換したと思われる。シンデレラ・ストーリーを演出するためだ。

「努力は必ず報われる」や「TOKYO DOME ~1830mの夢~」など、かなり初期から秋元康氏は当初のコンセプトを捨て、「最小公倍数」が「最大公約数」へと成長してこそ意味がある物語に転換している。

PRODUCE48も同形式の物語の続編に過ぎない

そして成長物語は主人公が成長するとハッピーエンドとして終わってしまう。しかし物語をつづけるには新たな物語を続編として書かなければいけない。

その続編が姉妹グループ展開や坂道系なわけだが、同じ形式の成長物語をくり返しているだけで、最初から物語は終わるよう決定づけられている。

『PRODUCE48』も続編の一つに過ぎない。AKB48が地下アイドルから全国区アイドルへの成長なら、PRODUCE48は秋元康氏自身のいう「高校野球」アイドルから「プロ野球」アイドルへの成長だ。

どちらも構造が同じ成長物語なので『PRODUCE48』のハッピーエンドが韓国デビューになるのは当たり前である。

松谷創一朗氏はPRODUCE48の結果、人材が流出し、「AKB48運営側の制作体制の問題こそが、明るみになったのだ」とするが、人材流出はPRODUCE48という成長物語のハッピーエンドで、秋元康氏が予定していた結末にすぎない。

AKB48の「総選挙の人気低落もこうした制度疲労の結果として生じ」たというのは、ここまで見てきたように間違いである。

秋元康氏自身がAKB48の初期コンセプトを意図的に裏切って成長物語に差し替えたとき、AKB48はすでに人気低落が予定されていた。成長物語には常に終りがある、単にそれだけのことだ。

そしてこれは悪いことでも不幸なことでもない。

1970年代のアイドルがいつかはアイドルを「卒業」して、芸能界を引退したり、女性俳優になったり、別の道を歩んだように、成長物語のアイドルは必ず終わりを迎える。

「機能不全」や「制度疲労」と表現すると、機能不全や制度疲労が起こらなければ人気は続いたはずだと読めるが、AKB48は必ず終わる成長物語だっただけのことだ。

秋元康氏がAKB48の当初のコンセプトに忠実なら、例えばNegiccoのようなアイドルになっていたはずである。

AKB48の成功物語が再び軌道に乗れば、成功物語の続編がまた一つでき、AKB48がダメになれば、別のアイドルが同型の成功物語でファンに夢を与えるだけのことだ。

AKB48が「日本のポップカルチャーに大きな足跡を残した」という見立てはAKB48の過大評価だろう。AKB48の唯一の独創性は、アイドルとの物理的接触の権利という「飛び道具」でCDを売るアイデアだ。

メンバーの入れ替えや卒業システムは、秋元康氏も部分的にかかわっていた「おニャン子倶楽部」のメンバーが、たまたま学業の都合でアイドル活動を辞めざるをえなかったことや、それをモーニング娘。など後続のアイドルグループが制度化した実績を、AKB48が借りただけで、秋元康氏の独創ではない。

SNH48は永遠の地下アイドルだから成功している

秋元康氏が当初のコンセプトを成長物語に転換した理由は、端的に言って地下アイドルでは儲からないからである。

終わりのある成長物語だから続編を書きつづけられる。続編を書き続けられれば儲けつづけられる。

ただし、儲けることは正しいことである。儲からなければ続編を書くことさえできない。

ではなぜそこまでして続編を書くのか。同じパターンの成功物語を飽きもせず消費してくれる消費者がいるからだ。これも悪いことではない。消費行動に独創性は不要で、むしろ同じパターンのくり返しという分かりやすさが消費をうながす。

アイドルのファンはそういうものである。ワンパターンの成功物語を消費しつづけて何度もカタルシスを得る。そのためにくり返しお金を使う。それがアイドルのファンの正しい姿である。

さて、ここでようやくSNH48のお話になる。

AKB48の低迷に比べてSNH48が順調だと思っている人がいたら、それは間違っている。SNH48は今でも地下アイドルであり続けているからこそ順調に見えるだけだ。矛盾した言い方になるが、SNH48は失敗しているからこそ成功している。

SNH48は秋元康氏の当初のAKB48のコンセプトに忠実に、全国区で成功せず、マスメディアに露出しつづけることもせず、劇場公演や握手会など「こだわりを持つ少数」のための地下アイドルでありつづけている。

でも上海メルセデス・ベンツ・アリーナのような1万人級の会場で総選挙を行うのは、すでに地下アイドルと言えないのでは?と思う方がいるかもしれない。

そういう方は中国の広さを知るべきだろう。

中国で全国区の「アイドル」とは、中国各地にある横浜や大阪の規模の大都市ツアーをして、アリーナ級の会場で観客を動員できるような「アイドル」のことを言う。ただこのクラスの「アイドル」はもはや日本で言えば「スター」である。

SNH48グループは全国区のスターになりえないし、おそらくなるつもりもない。事業としてリスクが大きすぎるからだ。

限られたファン圏からの収入で地下アイドルとしてこれからも事業を継続するだろう。右肩上がりの成功物語ではないが、逆にそのおかげで事業を継続できている。

去年、今年とSNH48グループはリクエストアワーの「大組閣」でチームの解体、姉妹グループの解散、メンバーの大量契約解除などを行っているが、それも右肩上がりの成長物語より事業継続を優先している証拠だ。

現地SNH48ファンはAKB48ファンの割合が多く、秋元康タイプの成功物語、つまり、SNH48もいつかは全国区になることを期待しているファンが少なくない。その期待が裏切られているため、「SNH48はおしまいだ」と言う人も一定数いる。

しかしそれは全く逆で、秋元康的な成長物語として失敗しているからこそ、SNH48は成功している。SNH48はAKB48の当初のコンセプトに忠実であり、永遠の地下アイドルとしては成功しているのだ。

SNH48のK-POPサブユニット「7SENSES」も韓国で全国区になることはありえない。逆輸入型で箔が付いて中国で活動しやすくなり事業継続に貢献するところまでだ。

SNH48の7SENSESは『PRODUCE48』のような成長物語ではない。地下アイドルであるSNH48に少し輝きを与えるだけで、地下アイドルを全国区に成長させる役割はない。

中国からはグーグルが使えず、グーグルトレンドを目安にできないため、中国のグーグル「百度」の「百度指数」を見てみよう。期間はSNH48が活動を始めたころ、2013/01/01~2019/03/21、範囲は「百度」が使える地域、つまりほぼ中国と考えていい。

「百度指数」の仕様上、検索キーワードはすべて小文字表記されるが、大文字と同じことだ。

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参考までにSNH48卒業生で、SNH48運営に所属のままソロ活動しているキクちゃん(鞠婧祎)と、中国版ジャニーズとして大成功した「TFBOYS」、中国版『Produce101』から昨年デビューした「火箭少女101(ロケットガールズ101)」を追加した。

TFBOYS(オレンジ)のピーク時の人気は凄まじかったが、2016年後半から約1年間のSNH48(水色)はそれをしのいだ。じつはSNH48人気は完全にピークを過ぎている。

そこでピークを過ぎた後のSNH48を見てみる。

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昨年、中国ネット企業大手テンセント(騰訊)がMnetから正式に版権を購入して放送した中国版『Produce10』は「火箭少女101(ロケットガールズ101)」をデビューさせ、デビュー当初の2018/08前後こそ勢いがあったが、いまや注目度はSNH48以下だ。

それに対してSNH48は上下をくり返しながら、地面をはいつくばるように注目度を維持し、なかなか決定的に落ち込まない。まさに地下アイドル的な傾向と見ていいだろう。

ここでSNH48卒業生キクちゃん(鞠婧祎)(緑色)を入れたのは、彼女がSNH48運営会社の映像制作事業の看板女優であり、事業多角化の象徴だからだ。

キクちゃんの注目度が突然上昇する点は、彼女の主演作品のネット公開と重なる。そしてSNH48の注目度もつられて少し持ち上がっていることも分かる。

SNH48運営会社が事業の多角化のおかげで、本業のアイドルグループが成長物語を捨てた地下アイドルであっても事業継続できていることが分かる。

成長物語がくり返されることの副作用

SNH48はすでにAKB48公式姉妹グループではなく、上述のように地道に「地下アイドル」を運営する事業会社として独立した。

ではAKB48の他の海外公式姉妹グループはどうか。

今のところ右肩上がりの成功物語をなぞっているように見える。その必然的な結果として全国区に登りつめた姉妹グループは必ず凋落する。JKT48の成長から安定への山型のカーブに比べて、BNK48のカーブは急激になっている。

今度はグーグルトレンドを目安として見てみる。期間は2011/01/01~2019/03/22、範囲は全世界(Worldwide)。

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AKB48(紫)はすでに下降の一途とはいえ、まだ海外姉妹グループよりネット上の注目度は高い。

期間を変えずにAKB48を外してみる。

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BNK48は指数25あたりですでに頭打ちになってしまっている。そしてJKT48のゆるやかで大きなカーブに比べ、BNK48ブレイクの立ち上がりは急激だったが、2019/02にいったん底を打つまでの期間がたった1年間だ。

これは経済学でいう自己実現的期待に似ている。単なる期待だったものが、現実になってしまうことだ。

タイのAKB48ファンはインドネシアのJKT48の成功を知っており、自国でも同じことが起こると期待していた。必ず価格が上がると皆が信じている株のようなものだ。

実際には価格が上がるとは限らない。しかし皆が必ず上がると期待している状況では、できるだけ早く投資した方がよい。

投資しないことによる機会損失(=成功物語の実現に参加しない虚しさ)より、投資によって得られる利益(=成功物語に参加することによる喜び)を得られる可能性が高いからだ。

結果、BNK48の人気上昇のカーブはJKT48より急になる。

JKT48という前例があるため、現地ファンの期待はJKT48結成当初より高く、期待の高まりがさらに期待を高める。期待が高ければ成功の実現は早い。より短期間で成功まで登り詰めるため、上昇のカーブは急になる。

しかし凋落のカーブも急になる可能性が高い。いったん「売り」が始まると期待の落ち込みがさらに期待を落ち込ませ、より短期間で人気が凋落するおそれがある。

MNL48、SGO48のリスクは、JKT48からBNK48へと成長カーブの傾斜が急になりつづけている事実そのものが、当初の期待を押し下げる可能性が高くなることだ。

人気の上昇と下落が短期間になれば、それだけ早く投資に踏み切る必要がある。早く消費行動を起こさなければ、すでに落ち目になったグループを応援する結果になり、成長物語に参加する喜びという効用を逃してしまう。

しかしあまりに短期間になりすぎると、機会損失(=MNL48やSGO48の成功物語の実現に参加しない虚しさ)が受容できる可能性が出てきてしまう。

つまり、一生懸命応援してもあっという間に人気が落ちるなら、最初から応援せず静観する方がまし、というふうに期待が押し下げられる。

そうして他のみんなの期待が下がってしまうかもしれないという期待(予測)が、現実にグループの人気を押し下げたり、人気が落ち込むまでの期間をさらに短くする可能性が出てくる。

海外公式姉妹グループの未来は独立にある

ただし、株価が上がるという期待を維持する方法はある。それはAKB48からの独立だ。独立することで、株は別の銘柄になる。

今のところ自らを別銘柄に変えた海外姉妹グループはSNH48だけだ。

独立したおかげで、映像作品制作による版権ビジネスへの進出、公式アプリ独自開発によるマネタイズなど事業の多角化と、AKB48より先に「7SENSES」でK-POPに進出するなどコンテンツの多様化というぐあいに、次々と「別銘柄」にする策を打つことができている。

SNH48が存続している理由は、上述のように成長物語を捨てて独自の事業展開をすることで「別銘柄の株」を発行し、「AKB48株やJKT48株のような値動きはしません」と投資家(=ファン)の期待を変えたことだ。

それによって既存の買い手(=中国の既存のAKB48ファン)を一部失ったものの、新たな買い手を得ている。

SNH48がオリジナル曲の制作を始めた時、JKT48ファンの一部が「僕らにもオリジナル曲を」という声をあげたのはご承知のとおりだ。

これは自分が持っている株の値下がりリスクを恐れた投資家として当然の行動で、違う値動きが期待できる別の銘柄の株を発行してくれ、ということだ。

これを見て、BNK48やMNL48には最初から独自路線を公言してデビューすることもできたが、結局そうしなかった。おそらく後発のSGO48はさらに短期間で人気が凋落するだろう。

それでも日本の本部が海外姉妹グループ展開をやめないのは、今後の海外姉妹グループはロイヤリティ収入が得られれば良いと割り切っているためかもしれない。

極端な話、1か月間しか人気が出なくても、結成にかかった費用の元が取れればよいという考え方もありうる。

筆者が期待しているのは、以前このブログでも取り上げたように、SGO48運営会社が結成前からインドネシア、タイ、フィリピンに進出する計画を公言していることだ。

他のAKB48公式姉妹グループとの競合を最初から公言することで、SGO48が既存の公式姉妹グループとまったく違う銘柄だと、ファンの期待を高めることができている可能性がある。

しかし、AKB48グループ自体はAKB48から独立できていない。坂道系はAKB48から独立したつもりかもしれないが、秋元康氏の成長物語の枠から逃れられず、同じように紅白歌合戦に出演し、旧来の「最大公約数」型アイドルとしての成功を目指している。

ふたたび目安としてグーグルトレンドを見てみる。期間と範囲は上記と同じ。

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乃木坂は2017年前半で天井、その後ゆるやかな下落傾向に入った。欅坂46も下落傾向に入りつつある。IZONE(IZ*ONEというキーワードのデータは無い)はデビューで頭打ちになっている。

ここでも乃木坂46の大きく緩やかなカーブに比べ、欅坂46は短期間で急激にピークを迎えている。IZ*ONEはこの記事を書いている時点の落ち込みを取り返せるかにかかっている。

いずれにせよJKT48、BNK48の組合せと同じことが起こっている。坂道系も同じような成長物語を売り出しているため、後発組ほど上昇・下落のカーブが急激かつ短期間になっている。

海外姉妹グループがAKB48の前轍を踏みたくなければ、秋元康氏の成長物語から逃れるべく独立することだ。

日本のAKB48運営会社が100%のオーナー企業であるのに対して、東南アジア姉妹グループの運営会社は新興国のベンチャー企業である。今後の各国の経済成長につれて、日系以外の自国や海外の投資家を呼び込んで独立する余地は十分ある。

そこに新興国海外姉妹グループの未来がある。

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