BLOGOS『意外と日本が大好きな中国人』について、若干の訂正

Googleアラートで「SNH48」をキーワードに設定していると、たまにこういう記事が通知されてくる。

『意外と日本が大好きな中国人』澁谷司先生(BLOGOS 2018/03/06)。引用元は日本戦略研究フォーラムのこちらのページ

BLOGOSの中国アイドル記事は不正確なものが多く逐一言及するとキリがないが、今回の記事はメタレベルで興味深かった。

まず、澁谷先生が記事を書かれたきっかけの「TopBuzz」が中国のキュレーションアプリ「今日頭条」の海外版であること。

次に、引用されている動画「中国はどれだけ日本のことが好きか!100以上の映像実例で紹介!」そのものが典型的な「釣り」で、内容に何ら信憑性がないこと。

最後に、この動画はYouTubeにもあるが「TopBuzz」への掲載が無断転載である可能性。(TopBuzz動画に無断転載が多いのはご承知のとおり)

もう一つ言えば、ネタがあっという間に消費されるネットの世界で、4か月前の陳腐化した動画を取り上げている点。(動画で言及されている「1931」は2017年末に解散している)

まとめると、中国製アプリにある、無断転載かもしれない陳腐化した信憑性の低いネタ動画が、澁谷先生の『意外と日本が大好きな中国人』というコラムのきっかけになっている。このことがすでに現在の日中関係を象徴しているように見える。

元ネタの動画は単なる「釣り」で信憑性がなく、細かい誤りは訂正しないが、中国女子の反日感情が次の世代に弱まっているだろうと期待するのは行き過ぎだ。

日本文化へ憧れる若者は中国ではあくまで少数派だ。若年層人口が日本の10倍あるので、一部の若者だけでも日本人には多数に見えるだけのことだ。

中国で多数派の「リア充」の若者はまず「オタク」的にアイドルの追っかけなどしない。また、中国で芸能人やアイドルの追っかけをするのは若い女性というのが普通の価値観だ。

若い女性が日本のジャニーズ式中国人少年アイドルグループ「TFBOYS」や、元韓国EXOメンバーの中国人男性タレント、中国人女性歌手などのファンになるのは社会的に許容されている。しかし若い男性は「リア充」が普通で、女性タレントやアイドルを追っかけるのは大っぴらには言えないことだ。

したがってSNH48のような日本式女性アイドルを追っかける中国人男女に、日中友好の未来を期待するのは無理がある。彼らはどこまで行っても少数派だからだ。

本当に日中友好を考えるなら、まず普通の中国人の日本に対する好感度と比べて、普通の日本人の中国に対する好感度が圧倒的に低い事実を直視すべきだ。日中友好を妨げているのは、政治体制と普通の中国人の市民感覚を分けて考えられない日本人の方である。

マジメな議論はここまで。あとは澁谷先生のコラムの細かい誤りを訂正させて頂く。

北京BEJ48、広州GNZ48、瀋陽SHY48は上海SNH48を模したコピー版ではなく、上海SNH48運営会社「Star48」の100%子会社である。「Star48」は投資ラウンドのシリーズCを終えたベンチャー企業だ。

また重慶の姉妹グループは「CHQ」ではなく「CKG」である。重慶だけウェード式ピンインを採用して「Chongqing」ではなく「Chungking」からとっている。

「SNH48は、視聴者を巻き込むオーディション形式でアイドルをプロデュースしていく」という部分も誤り。SNH48のオーディションは『中国好声音』などと異なり非公開である。

そもそも中国芸能界でSNH48の存在感は非常に低く、卒業したトップメンバーのキクちゃん(鞠婧禕)の知名度もまだまだ。まして歌やダンスが下手くそな少女のオーディションなど、中国ではコンテンツとして成立しない。

「この投票自体、選挙慣れしていない中国の若者にとって衝撃的だったはずである。民主主義とは何かをこの総選挙で学べたのではないか」という部分も、日本人にありがちな誤解だ。この誤解は当ブログでこれまで何度も訂正しているが、一体いつまで訂正しなければいけないのだろうか。

そもそもAKB48の総選挙は民主主義と何の関係もない。どこにでもあるただの人気投票だ。それどころか票を金で買う「金権政治」と言ってもいい。

SNH48の「アイドル総決戦」(現地の正式名は「総選挙」ではない)の拝金主義はAKB48よりも徹底している。各メンバーの応援会はクラウドファンディングで投票資金を集め、投票のための票を購入するプロセスもSNH48運営会社の開発したウェブシステムで完全デジタル化されている。

日本のAKB48総選挙のようにCDを大量に買って、投票券を取り出して、といったアナログな作業は基本的に不要だ。

また、ファンが資金を投入して期待するのは、投票したメンバーの活躍による満足感というリターンであり、SNH48の「総決戦」は民主政治というより「株式投資」に近い。

「2位が李藝彤(西安市出身。愛称はイーちゃん)」とあるが、李藝彤に「イーちゃん」というあだ名はない。

現地でのあだ名は「发卡」、「ファーチャー faqia」ではなく、あえて「ファーカー faka」と発音する。彼女自身は外国向けには「white hairpin」というあだ名を使っている。

このブログでは彼女の自己紹介フレーズ「白发卡」が日本語の白いカチューシャと掛けられており、そのネタ元はAKB48楽曲の『Everyday、カチューシャ』なので「カチューシャ」と呼んでいる。中国でカチューシャというとソ連自体の戦車になるので、現地でカチューシャは使わない。他の日本人ファンは「イートン」と読んでいる。

いずれにせよ「イーちゃん」というあだ名は存在しない。

「黄婷婷(上海市出身。愛称はテテちゃん)」とあるが、テテちゃんは江蘇省南京市出身である。

「2016年、日本のAKSとトラブルを起こして以来、主力のチームSⅡとチームNⅡは、AKBの中国語のカバー曲を歌っていない。その代わりに、オリジナルの中国語曲を歌うことになった。」も誤りだ。

まず2016年にAKB48と決裂したとき、チームSII、NIIだけではなく、すでにSNH48にはチームHII、X、XIIが存在し、さらに北京BEJ48、広州GNZ48が存在していた。

そしてSNH48とその姉妹グループは今でもAKB48カバー曲を歌っている。

中国国内の法律上、SNH48運営会社はAKB48楽曲の上演権を持っていると思われるからだ。ただ、他の日本式アイドルグループもAKB48楽曲をカバーしているので、どこまで合法的にやっているのかは分からない。

とにかく今でもSNH48グループはAKB48楽曲をカバーするどころか、北京BEJ48チームJ、瀋陽SHY48チームSIII、HIIIは、AKB48楽曲のカバーで劇場公演を構成している。

「結論として、一般に、少なくとも中国の女子は日本文化への憧れが強いようである」。上述のようにこれは誤りだ。日本文化へのあこがれが強い中国の女子は一般的ではなく、マイナーな存在である。

「男子達が、彼女達アイドルを通して日本文化に触れ、日本へ憧れを持ってくれたら良いのではないだろうか」。これも誤りだ。

男子に限らず女子もだが、若者はSNH48が登場する以前から日本のマンガ、アニメにふれている。SNH48ファンの男女の間では、セーラームーン、カードキャプターさくらが子供のころの懐かしい思い出という人もいる。東方プロジェクトのファンもいる。

ONE PIECEやジョジョの奇妙な冒険のファンも、ウルトラマンや仮面ライダーシリーズのファンもいる。

そうした日本文化のコアなファンが、日本のアニメやアイドル出演番組に中国語字幕をつけて中国の動画サイトへ大量に「違法」アップロードしたおかげで、中国の若者の一定数が日本文化のファンになっている。

SNH48のような日本式女性アイドルがなくても少数の中国の若者は「すでに」日本に憧れており、それをきっかけに日本へ留学している人も少なくない。逆に、SNH48が出来たからといって日本に憧れる中国の若者は増えない。あくまで少数派のままだ。

むしろ日中友好における問題は、日本の若者がそういう中国の若者の実態を知らなさすぎることではないのか。中国の若者に期待するより、日本の若者の無知を嘆くべきだろう。

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