上海SNH48グループ、勝手に選ぶ2017年七大ニュース

上海SNH48グループの2017年七大ニュースを独断と偏見で選んでみた。順序に意味はない。

いよいよ全国区

SNH48は全国区になったと言っていいのではないかと思う。日本でもAKB48は知っているが「現場オタ」の世界は知らない人がほとんどで、SNH48も事情は同じだ。中国都市部の若者なら名前くらいは知っているレベルの認知度にはなったと思われる。

その原因の一つは中国中央テレビ(CCTV)の常連になったことだろう。

中国の紅白『春晩』初出演に始まり、姉妹グループの北京BEJ48、広州GNZ48もCCTVの音楽番組やバラエティー番組の常連になった。CCTV交通放送では中国全土のバスの車内で第四回総選挙PR映像が放送された。

そして、北京BEJ48、広州GNZ48に加え、新姉妹グループ瀋陽SHY48、重慶CKG48を結成、地元の活動を続けることで各主要都市の知名度も底上げされている。

メンバー数は300名を超え、「中華圏最大の女性アイドルグループ」にウソはない。海外展開中のAKB48グループを超えて「アジア最大の女性アイドルグループ」になる可能性もある。

また、中国芸能界で知名度を上げるにはスキャンダルが必須。その意味でも迷曲『逐夢演芸圏』がバズったり、あるメンバーが有名男性歌手の不倫騒動で男性側を擁護して炎上したり、テイラー・スウィフトのヒドいカバーが現地洋楽ファンから非難されるなど、醜聞も知名度向上に貢献した。

キクちゃん卒業

SNH48は総選挙四回目にして、早くもピンで活躍できるタレントを輩出することに成功した。二期生キクちゃん(鞠婧禕)がSNH48を卒業し、変わらずSNH48運営会社専属だがソロを開始している。

彼女が卒業できたのは、ネットドラマ・映画出演の努力によるところが大きい。例えば彼女が出演した『熱血長安』というネットドラマは、公開1週間で視聴回数4.6億回。ネットコンテンツ経由で確実に彼女の名前が浸透した。

一時期日本でも「四千年に一人の美少女」というフレーズでバズったが、キクちゃんはすでにこのレッテルと無関係に活躍できる女性タレントになっている。

投資ラウンド・シリーズC完了

日本人がいちばん分かっていないのは、SNH48運営会社はアイドルグループ運営会社ではなく、投資家の資金を積極的に受け入れるベンチャー企業ということだ。2017年デロイト中国の成長優良企業35社に選ばれた。

主要コンテンツであるアイドルグループの面では、国土の広さから劇場公演を最初から無償でネット生放送し、地方都市の中産階級の「オタク」の囲い込みに成功した。

そして総選挙など投票イベントをITで効率化し、投票券購入から投票までデジタル化した。日本のようにCDが大量廃棄されるような非効率な選挙運営を脱し、マネタイズ自体のコストを最小化している。

また、主婦の友社『mina』中国版を買収して100%子会社にしたほか、復星集団との提携で姉妹グループ瀋陽SHY48を実験的に「文化地産」投資プロジェクトとして開設するなどしている。

いわゆる「IPビジネス」も加速させている。ドラマ・映画を自社製作し、米国でいうNETFLIXのような会員制動画サイトに販売する事業で、キクちゃんはじめ、メンバーを女性俳優として育成し始めたのもこのためだ。

さらに、スマホアプリの自社開発によるマネタイズも進めている。日本のアイドルグループならIT事業は専門業者に委託し、ロイヤリティ収入だけを得るが、SNH48は収益を最大化するため自社開発している。

メンバーの生放送は日本でいう「Showroom」のような事業者に頼っていたが、公式アプリに生放送機能を独自開発し、仮想応援アイテムに課金している。メンバーの二次元キャラが登場するアイドル育成スマホゲームも最近自社開発でリリースし、アイテム課金で収益源にしている。

ビジネスのための愛国

中国で知名度が増すと、事業継続のために「愛国ポーズ」が必須になる。無知な日本人は愛国の部分だけを近視眼的にとらえて「SNH48が愛国プロパガンダアイドルに!」などの勘違いをするが、SNH48運営にとって愛国は手段にすぎない。

そもそもSNH48運営会社総裁の王子傑は上海復旦大学卒後、日本に留学して同志社大学修士号を取得したエリートで、日本国籍をもっている。

SNH48は去年から国慶節(建国記念日)に愛国ソングのMVをリリースしているが、今年はさらに『夢想開始的地方(夢の始まる場所)』という曲のカバーMVを政府PRソングとして制作、中国中央電視台ほか、全国の衛星テレビでくり返し放送された。

また今年は元EXOメンバーのレイ(張藝興)とともに、共産党から「優秀青年」の表彰をうけた。そして上海SNH48星夢劇院を含む上海虹口区の「ミュージック・バレー」計画が国家プロジェクトに昇格した。

こうして愛国ポーズを取ることで政治リスクを避けなければ、中国国内でエンタメ事業などできるはずがない。

オリジナル路線の加速

楽曲や劇場公演で「脱AKB48」を猛スピードで進めている。全曲オリジナル公演は今年だけで6公演を開始(『第一人称』『Beautiful World』『第48区』『双面偶像』『愛の名において』『FATE X号』)。

新公演までのつなぎの公演を除くと、姉妹グループふくめた全チームの定期公演がすべてオリジナル公演となり、シングルやEPもすべてオリジナル曲になった。

楽曲制作はJ-POPスタイルの楽曲制作の経験が豊富な、台湾や韓国のミュージシャンに外注している。作詞についても基本は外注だが、評価の高い若手作詞家・甘世佳を要所要所で起用してクオリティを保っている。

今年は、一部のJKT48ファンがJKT48握手会で「オリジナル曲がほしい」と横断幕を掲げる「事件」があった。JKT48ファンの中にはSNH48フォロワーもいて、SNH48のオリジナル曲展開の速さを知っているからだ。

AKB48グループの楽曲制作は、ビジネス観点では明らかに秋元康の作詞工程がボトルネックになっており、海外姉妹グループのファンはSNH48の展開スピードを横目に見つつ、ますます不満を募らせるかもしれない。

また上海SNH48劇場の回転率を上げつつ新たなファン層を取り込むため、実験的にオリジナルミュージカルの上演も始めている。

慎重な国外進出

中国国内で最も人気のある海外ポップスは間違いなくK-POPだ。

SNH48運営会社は今年、7人からなるK-POPスタイルの派生チーム「7SENSES」を結成、韓国特訓で48系を超えるK-POPレベルのダンスをマスターさせた。「7SENSES」のMV制作は韓国ZANYBROS、楽曲制作はS.Tigerなど韓国のプロデューサに委託している。

今年は「2017 Asia Artist Awards」に参加し、韓国のミュージシャンと同じ舞台に立つ機会もあった。また今年だけでミニアルバムを2枚リリースしており、こちらも楽曲展開は速い。

ただ国外進出には慎重である。SNH48運営会社は韓国では海外制作陣が前面に出たり、外国人メンバーがメインでは成功しないと分かっている。どうしても外交問題がからむためだ。

また中国の国内市場が十分に大きく、政府がコンテンツ国産化を進める中、レイ、ルハン、クリスなど韓国逆輸入タレントの例から、K-POPスタイルの国産コンテンツ事業を有望視していると思われる。

対外的には、例えばK-POPグループの中国人メンバー経由で、自然に海外で7SENSESファンが増えるのを静観するだけで、国際的評価の低い中国産コンテンツで海外投資する意思はないようだ。

自社コンテンツの国外での商品価値について、SNH48運営会社は客観的な判断ができている。

事業拡大による「内憂」

事業が拡大し、メンバー数が増え、ファン層も広がり、知名度も上がるにつれて、SNH48運営会社は2つの「内憂」を抱えるようになった。

一つは退団メンバーの取り扱い、もう一つはファン対応だ。

SNH48グループの専属契約は8年縛りで、中途解約は数十万人民元の違約金が発生するため、メンバーが自ら退団することは裕福な家庭でないかぎり難しい。

精神的に追いつめられたり、体の故障で退団をせざるを得なくなったメンバーも違約金を請求され、運営会社の拝金主義が現地ファンから批判されることもたびたびある。退団メンバーが退団後に「逆恨み」からグループの悪評をネットに流すこともある。

48系アイドルは育成系なので、運営会社にしてみれば退団の条件を緩和すれば、育成費用を回収できないまま次々退団されて収益に影響する。当面、打開策はなさそうだ。

もう一つ、ファン対応はそれ以上に問題になりつつある。トップメンバーの応援会は組織力と資金力が強大で、日本では考えられないほど運営会社の意思決定に影響力を持つ。

この二年間、総選挙トップメンバーは上海SNH48二期生に偏っている。総選挙上位メンバーは応援会が投票資金の回収のため運営会社に圧力をかけ、運営会社がそれに応えてそのメンバーのテコ入れをし、ますますそのメンバーの人気が出るという循環から、トップメンバーの「寡占化」が進んでいる。

ファンからの収益構造の偏りは、事業展開の自由度を縛るリスクになりつつある。ただ、運営会社が上述のコンテンツビジネスなどで収益源を分散できれば、強大すぎるファン組織の影響力を緩和できるだろう。

以上が独断と偏見で選んだSNH48グループ今年の七大ニュースというより、七大トピックだが、一つ確実に言えるのは、去年2016年にAKB48運営会社と決裂したのは大正解だったということだ。AKB48運営会社に限らず、日本企業にここまでのスピードで企業規模を拡大することはできなかっただろう。

SNH48運営会社のこれからは、アイドルグループというコンテンツと「ファン経済」から離陸して、新たな事業展開ができるかどうかにかかっている。SNH48運営会社はアイドルグループ運営会社ではなく、ベンチャー企業だからだ。

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