広州GNZ48『回家』パクリ疑惑に運営が法律にそった冷静な対応

広州GNZ48運営会社が、単にエンタメやファンサービスをよく理解しているだけでなく、企業としてしたたかな面もあるというお話。

GNZ48が2017/01/20にリリースした3rd EP『BOOM!BOOM!BOOM!』の『回家』という曲について、中国のとあるインディーズバンドが、自分たちが2013年に発表した曲のパクリだと中国ツイッター(新浪微博)でツイートした。

そして両曲を聴き比べるための検証動画を作ってツイートし、広州GNZ48運営に連絡したが、回答が得られないと書いた。

それに対して、GNZ48運営は2017/10/27 11:42に、社印つきの正式文書を公開。

バンド側に証拠の提出を求めたが、回答がなく、損害賠償の訴訟を起こす準備があるとした。この文書の日本語試訳は、後でつける。

じつは以前、広州GNZ48運営は、チームNIII全曲オリジナル公演『第一人称』の『為了你』という曲が、同人音楽作家(いわゆるボカロP)の歌詞と酷似していると指摘されたことがある。

このときは謝罪し、歌詞を差し替えている。GNZ48運営はたとえ一般人の音楽作家でも、正式な回答と証拠の提示があれば、パクリならパクリと認めて撤回する。中国企業にしては遵法精神のある会社なのだ。

今回、広州GNZ48運営が訴訟まで言及したのは、残念ながらこのバンドの対応がきわめてまずいからだ。

このバンドが『回家』がパクリだという意見をネットに広めるのに使った方法は、「友だち3人にリツイートしてくれたらレモンティーを一箱抽選でプレゼント」という、冗談みたいな方法だった。

この方法は中国ツイッター(新浪微博)の抽選機能を利用したものだが、SNH48ファンもメンバーへの攻撃に反論するための「ネタ」的な手段としてよく使う。レモンティーは現地の「VITA檸檬茶」と決まっている(笑)。

このバンドは自分たちの著作権を守るための法的な知識がないことがわかる。

以下、詳細に検証してみる。

「中華人民共和国著作権法」
日本貿易振興機構(ジェトロ)による日本語訳
「抄袭和剽窃是怎样界定的?」(百度百科)

今回の件は以下のように整理できる。(誤りがあればツイッター経由で訂正をお願いします)

(1)著作権は創作することで著作者に自動的に発生する。(中国著作権法第十一条)

(2)著作権には複数の権利が含まれており、部分的な譲渡ができる。(同第十条、第二十四条)

(3)ある作品に剽窃の疑いがある場合、剽窃かどうかを決めるのは、当事者ではなく裁判所である。

(4)裁判所に剽窃かどうかの裁定をしてもらうには、当事者が提訴する必要がある。

このバンドのツイートを読むと、(3)を全く理解していない。パクリかどうかを決める権利は著作者にあるという誤解をしている。

そんなことを認めてしまえば、著作者はあらゆる作品をパクリだと主張できることになる。少し考えればそんな法律があり得ないことは、分かりそうなものだが…。

そしてマズイことに、裁判所がパクリだと裁定していない段階で、GNZ48側をツイートで罵倒しつづけている。

このバンドの対応が、法的に失敗していることを説明するために、まず、GNZ48運営の正式な反論文を日本語試訳しておく。

近日ネットに流れているGNZ48楽曲『回家』剽窃疑惑に対し、真相を知らない皆さんが、過渡の憶測で流言飛語に誤って誘導されないよう、弊社は以下とおり説明いたします。

1、楽曲『回家』は弊社がリリース会社として委託した創作作品で、弊社と委託先が明確な楽曲委託創作合意に署名したものです。楽曲に剽窃行為がある場合、版権の関係にもとづき、当然作者本人が剽窃者を提訴すべきです。作者本人でない人物の疑問について、弊社は何ら仮定の話や評価をしません。

(訳注:バンドのファンからの抗議には回答しない、という意味)

2、弊社は確かにこの件に関連する連絡を受けましたが、厳正かつ責任ある態度で連絡者の身分を確認する必要があります。弊社はすでに連絡を受けた中から相手方に本件について証明を提出するよう確実に求めましたが、いまだ証拠資料を受け取っていません。

(訳注:バンドは検証動画を公開したが、GNZ48運営会社を宛先に証拠として提出されていない)

3、現在ネットに発表されている”証拠映像”の存在が強く、誤った方向へ導く内容となっています。発表者は故意に両曲の明らかに異なる部分を取り除き、かつ、動画にテロップを加えて耳目を惑わしています。

動画の中で両曲は混合され、『回家』の音量は小さく、もう一方の曲の音量は大きく調整され、ネットユーザの皆さんに似通っているかのような錯覚を作り出しています。

(訳注:バンドの検証動画が名誉毀損など、損害賠償請求の対象になる可能性があるという警告)

4、弊社はあらためて厳粛に声明します。ネットユーザの皆さんは今回の件につき合理的な関心を保って下さい。真相は司法機関の下す判決にあり、弊社やネットの世論が決定することではありません。関係者は法的契約関係と法的手続によって合理的に申し立てをして下さい。

今回の件で、弊社は今のさまざまな意見に対して何ら原因の追求をしません。弊社に対する真実でない言論、非合理な罵声に対して、弊社は引き続き調査を行い、証拠を収集し、法的手続きにより訴追する権利を留保します。

(訳注:バンドのファンのツイートも、損害賠償請求の対象にする可能性があるという警告)

弊社は幅広いファンの皆さんのGNZ48に対する支援と激励に感謝し、ファンの皆さんが今回の件に客観的に対応し、他人に誤った方向へ誘導されないようお願いいたします。今回の件で弊社に損失を及ぼしたすべての行為について、弊社は法的責任を追求するあらゆる権利を留保します。

広州GNZ48運営が公開した両曲のメロディーの五線譜は下記リンク先。

こちらがインディーズバンドの楽曲
こちらが広州GNZ48の『回家』

このGNZ48運営の反論でもっとも重要なのは、「『回家』はパクリではない」と言っていないことだ。

パクリかどうかを決めるのは当事者ではなく裁判所だと、正しく理解しているからだ。

これに対する、バンドの反論ツイートを見てみる。

「ほんとに死ぬほど笑える。じゃあ回答してあげましょう(お手数ですが次回は僕らにアットマークでメンションしてくれませんか。でないと本当に誰も貴グループのツイートなんて見ませんので)。第一:僕らが作った動画で事実を列挙して回答しています。第二:二枚の楽譜はまったく記譜法の規範に合っておらず、音楽の分からない人は騙せるかもしれないが、楽理を学んでさえいれば、誰でも山ほど欠陥を指摘できる。貴社のいう”第三者のミュージシャン”の本当の身分を明らかにして下さい。第三:うまくパクったからといってパクリでないことにはならない」(2017/10/27 14:49)

この反論ツイートは、法的に不備だらけだ。

まずパクリかどうかを決めるのは裁判所である。GNZ48運営が求めているのは、証拠をそろえて提訴しなさいということだ。

しかしこのバンドは「自分たちの作った比較動画がその証拠だ」とツイートしている。しかしツイートでは正式な証拠文書にならない。GNZ48運営を宛先にして提出し、その証拠をもって提訴する必要がある。

そしてGNZ48側が提示した楽譜がデタラメだと思うのであれば、このバンドは自分で書いた楽譜を、同じように証拠にする必要がある。ツイートに法的効力はない。

逆に、このツイートだけで、GNZ48運営がこのバンドを名誉毀損で訴えるおそれがある。

しかし、このバンドはさらにツイートを続けている。

「趣味の音楽人でもそうそう書けないような、稚拙な楽譜を二枚を明らかにすれば、ファンは騙せるだろう。しかもこういう言い逃れは、回答になっていないばかりか、この会社がずるがしこくて、貧乏たらしく詐欺をはたらくような面の皮が厚いヤツだという本質を、完全に公衆の面前に暴露している。この女性グループGNZ48のメンバーの子たちが哀れだ。楽屋裏にいる醜いつらがまえの奴らの口実にされて、金を吸い取る道具にされてしまっている」(2017/10/27 14:24)

ここまでの罵倒を誰でも読めるツイートで書けば、GNZ48側がこのバンドを名誉毀損で訴える要件はほぼそろっているだろう。

このバンドはさらに続ける。

「ある人が詩を一つ書いたとしよう:窓に明月があり、まるで地上の霜のよう。頭を上げては明月を見、頭を下げてはわが故郷を思う。出版した後、みんなから本来の創作レベルと誇張してほめられた。ところがある人がパクリだと言ったら、幼稚園の先輩にその詩と自分の詩の書き写しを頼んで、その二枚の写真を撮ってツイートして、以上で潔白です、だって」(2017/10/27 15:48)

ここに出てくる詩は、誰にでも書けるような下らない詩の例で、『回家』を指している。

下らない曲なのに、リリースしたらファンから褒められた。ところがこのバンドからパクリと言われた。それで幼稚園レベルの委託先のミュージシャンに記譜してもらって、二枚ならべてツイートし、これで潔白ですと、そんなもので潔白の証明になるわけがない!

…というのが、このツイートの意味だ。

しかしGNZ48側は一度も「『回家』はパクリではない」と書いていない。くり返しになるが、それを決めるのは裁判所だからだ。

裁判所がパクリかどうかを決める前に、GNZ48側を罵倒しつづけることで、このバンドは自分で自分の首をしめている。損害賠償請求される可能性を、自分で強めている。

このバンドは自分たちがやっていることを理解していない。続けてツイートしている。

「ここ数日事態の進展に関心のある人がいるようだ。また飼い主に引っ張られて調子に乗って、口うるさく”能力があるなら訴えてみろ”とわめいてくる犬が何匹かいる。『XXX』(訳注:彼らの具体的な曲名があるが彼らの名誉のために伏せ字にする)の版権は2014年出版時に即、当時の私たちのマネジメント会社である酷狗娯楽に帰属している。具体的な取扱いは以前の雇い主と相談する。広州絲芭の金曜日の回答の反撃は、確かにバンドのメンバーに”人は卑しくなれば無敵になる”という言葉の真理を感じさせてくれた。また、私たちに友好的でないダイレクトメッセージはすべて叩き返す」(2017/10/28 22:13)

このツイートも法的にはムチャクチャである。

GNZ48運営会社(広州絲芭)の名誉を傷つけているのはもちろんだが、マネジメント会社の酷狗娯楽との関係についても矛盾がある。

筆者の理解では、可能性は二つしかない。

(A)このバンドと酷狗娯楽の契約が、著作権と隣接権をすべて失うという内容なら、そもそもこのバンドには、GNZ48に抗議する権利がない。それができるのは酷狗娯楽だけである。

(B)このバンドと酷狗娯楽の契約が、著作権と隣接権のうち、著作権侵害を訴える権利を留保する内容なら、酷狗娯楽と相談する必要もなく、自分たちで弁護士を雇ってGNZ48運営を訴えることができる。

おそらくこのバンドは、酷狗娯楽と契約したとき、自分たちが著作権と隣接権のうち、どの範囲を、いくらで、どういう条件で譲渡したのか、理解せずにサインしたのだろう。(中国著作権法第三章)

このバンドが著作権法を理解していないことは、彼らの2016/09/09 01:19のツイートから分かる。

「僕らの酷狗の落とし穴がどれだけ悲惨だったか、みんな知らないだろう。どうして2015年から2016年まで僕らがほとんど姿を消していたか知ってるかい?僕らは2014年後半に酷狗と完全契約したが(マネジメント+著作権契約)、そのあと起こった事といえば、本当に、みんなも死ぬほどムカつくよ。このツイートのコメントが100件を超えたら檄文を書くことに決めた」(2016/09/09 01:19)

抗議の仕方は今回と変わらず稚拙だ。結果、ファンからのコメントが無事に100件を超えたので、このバンドは次のように書いた。

「マネジメント契約後、有償ライブの回数はゼロ回、ゼロ回!版権の分配金はゼロ!ゼロ!!!許諾されたアルバム制作は自分たちの金で制作して、そのあと約束を破られた!広告費用ですべてなくなっただって!僕らに繁星というサイトで生放送させて、2万人ファンが集まれば、もう一度アルバムをリリースしてやると言ったから、死ぬ思いで半年間生放送したのに、視聴者に応援アイテムを要求しなかったからという理由でしらを切られた!!!いま僕らの楽曲(権利を与えていないもの)はいまだに酷狗でいつでも聴けるし、ダウンロードできる。大企業はこういうふうにまれに見る恥知らずだ」(2016/09/09 11:56)

彼らがGNZ48にパクられたと言っている曲は2013年の曲なので、このバンドは酷狗娯楽に著作権を完全に譲渡していたことになる。

つまり、権利者は酷狗娯楽であり、このバンドは問題の楽曲についてGNZ48に抗議する権利はないのだ。

じつは彼らのこのツイートは、ヨーロッパのとある歌手の著作権を管理しているユニバーサル・ミュージックが、無断でその歌手の作品を公開した「酷狗音楽」というアプリについて言及した文書のリツイートになっている。

しかしユニバーサルが抗議したのは「酷狗音楽」ではなく、このアプリをダウンロードできる状態にしたアップル・ストアの運営会社のアップル社である。

このバンドは、「僕らをひどいめにあわせた酷狗音楽がユニバーサルに抗議されて、いい気味だ」という主旨でリツイートしている。

しかしユニバーサルが抗議したのはアップルであって酷狗音楽ではない。このバンドは法的な権利関係を理解していない。

ユニバーサルが酷狗音楽の運営会社であるテンセント(騰訊)と直接ライセンス契約を結んだのは、つい最近、2017/05のことらしい。時間をかけて法的に適切な手続で、中国国内の企業に著作権を守らせる契約を結んだということだ。

このバンドは、自分たちがやったマネジメントと著作権の一括譲渡契約と、音楽配信契約(=著作権の一部の譲渡)の区別がついていない。

もしかすると、タレントマネジメント会社の「酷狗娯楽」と、音楽配信会社の「酷狗音楽」の区別さえついておらず、「どっちも大企業で、自分たちは被害者」という認識しかないおそれがある。

商業音楽をやっているミュージシャンが、自分たちの権利を守るための法律にここまで無知だとは驚きだ。

問題は、金持ちの大企業か、貧乏なミュージシャンか、ではなく、著作権を理解しているかどうかにある。

法律の知識がなければ、自分たちの著作権は守れない。その結果、著作権でお金を稼ぐこともできない。

逆にこのバンドは、GNZ48運営から名誉毀損などで損害賠償請求されるおそれがある。

このバンドに「がんばれ!大企業のGNZ48運営に負けるな!」と声援するファンも、このバンドをますます不利な立場に追いこんでいる。

実はこのバンドのツイートには、このバンドの一部のファンからも、GNZ48の一部のファンからも、「弁護士を雇ってGNZ48側を訴えて!」とアドバイスしているコメントがついている。

今後このインディーズバンドが法的に正しい手続で、自分たちの権利を守ることができるか、かなり心配。

ご承知のように上海SNH48グループの法務は、退団メンバーとマネジメント契約についての訴訟を何度も経験しており、きっちり契約に定められた違約金の一部を回収している。

SNH48運営も広州GNZ48運営も、企業である限り株主の利益を無視できないのは当然だ。行使すべき権利を行使せずに損失を出せば、株主を失ってしまう。

ある意味、中国の商業音楽業界の未熟さがよく分かる案件といえるかもしれない。

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